*書評ではないのでネタバレはありません。
この物語のどこが面白いかというと、
Point 直木賞作家である表現力が巧みな作者が、独特な女性観と幸せの追求を表現した逸作
主人公、村主塔子は、2歳の娘と夫とその両親との世帯同居生活。ある日、友人の結婚式に出席した塔子は、かつての上司の鞍田の姿を見つける。その縁で仕事復帰をすることに。鞍田と再会し、彼との関係が深まって行く中、結婚、家庭、子育て、女性の働き方を通して、自分の幸せのあり方に少しずつへんかあを見せる塔子。
島本作品がファーストトライだったのですが、半ば官能小説のような描写や表現に圧倒される箇所もありますが、ほとんどは主人公の心の動きを追っていくことで女性の幸せの考え方や成長を見て取れる作品です。
作者、島本理生さんの夫は、作家 佐藤友哉。
夫の作品をほとんどすべて読了する妻と、全く読まない旦那のカップルです
一度、離婚して復縁しているこの夫婦のその結びつきは「作家合コン」
その作り上げる物語の妙も、この環境にして生まれるものなのかと感嘆します。
それでは、まずは、作者紹介からいたしましょう。
島本理生(シマモト・リオ)
1983年、東京都生れ。『リトル・バイ・リトル』で第25回野間文芸新人賞を受賞を受賞し、2005年、『ナラタージュ』が第18回山本周五郎賞候補となる。『アンダスタンド・メイビー』で第145回直木三十五賞を受賞。女性の成長の家庭で経験する心の動きを繊細に描写し女性の幅広い層から指示がある。
本作を含め、過去5回の直木三十五賞候補になっている。
彼女の代表作といえば、
島清恋愛文学賞を受賞した本作の他、
『ナラタージュ』と、2015年に刊行され『Red』の着地点的な位置づけとして2016年に発表『Red』に続き、映画化が発表された『イノセント』
直木賞を受賞した『ファーストラヴ』
∽∽∽∽ コメント ∽∽∽∽
この小説は、最終章のエピローグの存在がすべてだと思います。そこだけ、トーンが様変わっている。色でいえば、赤く塗り続けていた文章が、フット力が抜け萌黄色のような優しさに変わったようです。この秀逸なラストシーンが原作と違うという映画も少しきになるところです。
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さて、心地よい登場人物を簡単に紹介しましょう。
村主 塔子( とうこ):夫の両親とともに暮らし、一人娘を育てる専業主婦出会ったが、
友人の結婚式で鞍田明彦と再会後、鞍田の紹介で就職。 鞍田 明彦(くらた あきひこ):塔子の元恋人。以前は妻がおり、塔子とは不倫関係
小鷹 淳(こだか じゅん):塔子が勤め出した会社の同僚
村主 真(むらぬし しん):塔子の夫
村主翠:塔子の娘 2歳
村主麻子:同居しているリカの塔子の義母
まず、主人公の塔子は家事や育児も義母の援助をもらい、淡白ではあるが、優しい夫との平凡な生活を営む主婦、その後、会社勤めに復帰するが、そこでも、おおよそ家族の理解や手助けを受けるウチにこもりがちな女性なのですが、正直、全く手に負えない女性です。
登場人物のすべてに感情移入できず、少し腹立たしささえ覚えます。
塔子は、典型的な性悪。
自分の世界からしか物事を見られず、会社勤めに復帰しても脇が甘く、自分を正当化しながらも流される。自分を真面目な女性、しっかりしていると錯誤しながら胸元を大きく開けているような救いがない女性。2歳の子供の母親という設定もその違和感を助長していいますが、確かにこのような女性は結構世の中にいます。そのリアル感がまた傷を逆なでするようです。
官能小説のような描写が何箇所か出てきますが、これが官能小説であれば読み方が変わるのに、大人の恋愛の形を言い訳のように彷徨う主人公、それはダメでしょと思う場面も、自分の都合の良いように解釈してしまうことが、落ち着かない。
この主人公に対して、夫が、再開した不倫相手が、同僚が、その視点に立て流のであれば、物語の信仰を他の閉まるのですが、見事に誰にも共感できず。
夫は優しい反面、鼻につくマザコン
不倫相手は、思慮深そうに見えて、主人公の振り回し方が乱暴にも感じられる。
同僚に至っては、何をやりたいのかわからない。
これは、設定を宇能鴻一郎先生に渡して、欲求不満の主婦が、お決まりの結婚式に主席しての再開から、ドロドロとセックスに埋もれる様を描いてもらった方がすっきりする。
何より、子供の存在が、自分の思い込みだけで動いている主人公のだらしなさを助長しているし、子供がかわいそうに見えてくる。
しかし、そうなのです。
現実は、往々にしてこのようなものなのです。
主人公は崇め奉るものではないし、周囲の人々も清廉潔癖なはずはない。
つまりは、よくある環境なのです。
そのリアリティが、隠し傷のうづきのような居心地の悪さを助長している。
それを受け止めると、読み手の心が落ち着き人間の物語として読みやすくなってくる。
更に、秀逸はエピローグ
読者視点を変えて始まるこの章は、時間とともに色が変わったなと読者を誘い、その後のラストシーンに続く思い出の部分が、淡く、少し気が遠くなるような、夢の中のような流れで続く。その心地よさが安心を抱く。
Point おそらくは、作者がこのシーンを最初に思い浮かべたのではないか、そうでなければこれは自伝、経験値から生まれたシーンではないかと思わせるラストシーン
おそらくは、この作品の見方は男女で違うものだと思います。
男が女性に隠すエロ雑誌と、レディース漫画や女性の持つ官能を男が驚くように、各々、異性に対する見方が違う。この気づきだけでも納得の物語ですし、もしかしたら、それをすべて分かっていて主人公のパーソナリティを作り上げているとしたら、恐るべし作家だとも思うのです。
だから、
まとめ 「直木賞作家である表現力が巧みな作者が、独特な女性観と幸せの追求を表現した逸作から、リアルな女性像を掴む
少し気になるのは、映像化された作品像。
ラストシーンが違うという点意外にも、映像によるインパクトで心理描写が微妙に表現できないのではないかと危惧します。
しかしながら、妻夫木聡、夏帆の共演には楽しみな部分も多い作品でしょう。
さて、この物語、あなたは読んでみたいと思いましたか?
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