【虚ろな十字架】 死刑廃止反対論を突き詰めた果てにある風景
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written by Masatetu Akimoto

【虚ろな十字架】 死刑廃止反対論を突き詰めた果てにある風景

更新日:2020年6月6日


                   *書評ではないのでネタバレはありません。

                   

 

 

この物語のどこが面白いかというと、


Point 犯罪被害者の残された家族と犯罪加害者とその家族、犯人への極刑は何を生むのか

死刑廃止論、死刑廃止反対論、それぞれの視点で問題提起された作品は多い。

「ネメシスの使者」(中山七里著)「坂の途中の家」(角田光代)など、リーガルステージで、その是非を問うていくことが多いようにも感じますが、その実、罪の真実に焦点に当てながらその因果が解きほぐされているこの作品もまたこの問題の妙となり得ます。


東野圭吾さんの創作の興味の一つは、登場人物の心理背景です。

それがミステリーというジャンル定義を超えた東野ワールドを作り出している。


人間の心理は、いつも湿っぽいものだ。

隠しているもの、隠さなければいけないことで溢れている。

そこには、正解とか不正解ではない、それだけでは区別できない事実が存在する。


東野圭吾は自身の作品「人魚の眠る家」では、脳死と臓器提供のテーマに挑んだ。

ここにも二つの立場、対局の考えが触れ合いながら物語が紡がれていく。


そして、その未開のテーマを東野圭吾の心地よい脚色により物語を収めていく。

これがヒューマンドラマリストの東野圭吾の真骨頂なのだ。



それでは、まずは、作者紹介からいたしましょう。


東野圭吾(ヒガシノ・ケイゴ)

1958年、大阪府生れ。1985年に『放課後』で第31回江戸川乱歩賞を受賞し、小説家としてのキャリアをスタート。1998年に『秘密』を刊行すると、一気に大ブレイク。2006年容疑者Xの献身』で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞(小説部門)を受賞し、作家版の長者番付でも上位に顔を出すようになるなどの人気作家。


2009年より日本推理作家協会理事長に就任



映画好き映画監督になりたかったこともあり、自身の原作映画『秘密』出演。



∽∽∽∽ コメント ∽∽∽∽

「死刑廃止論」というテーマに被害者家族の意識と、加害者家族の意識を表しながら、物語の本質であるタイトル「虚ろな十字架」を見事に創出しています。核心に迫るにつれ、ヒリヒリとした傷の痛みのうずきにも似た感覚を覚えます。そこからのクライマックス、東野エンタテインメントを楽しみください。

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さて、登場人物を簡単に紹介しましょう。


中原 道正:元妻の死から、ある事件の真相を紐解いていく。ペット葬儀社 社長  浜岡 小夜子:中原の元妻でフリーライター 事件の被害者で子供を殺された過去を持つ

日山千鶴子:小夜子の同級生で雑誌編集者

仁科 史也:慶明大学医学部附属病院小児科医

仁科 花恵:仁科史也の妻で、町村作造の娘

町村 作造:浜岡小夜子を殺害した犯人。68歳無職。仁科花恵の父

井口 沙織歳の時に母親を亡くしている。万引き依存症

佐山:警視庁捜査一課巡査部長



死刑廃止の是非の前に、「罪の償い」が大きなテーマになっている作品である。


物語は、罪を犯した者、被害者、被害者家族、加害者家族という側面を丁寧に描かれ進行するが、どんな物語でもその人間がどんな心を持っているかで読者の視点は変わってくる。この物語はその視点(立場の意識)を楽しみながらエンディングへと進んでいきます。



Point 罪にならない殺人はない。その殺人は誰に迷惑をかけたのか?加害者は?遺族は?罪に向き合うということは法に裁かれることと同じなのか?

「虚ろな十字架」というタイトルが後半になって腑に落ちる。

「殺人」「死刑」「贖罪」は、一つの線でつながっているものではない。

穴の開いたコップに入った水を、飲んでしまうのか、穴を塞ぐのか、水を入れ続けるのか、違うコップを用意するのか、そのどれもに正解も不正解もない。ただ、人間はそうやって人生をつないでいく。


だから、

まとめ 犯罪被害者の残された家族と犯罪加害者とその家族、犯人への極刑は何を生むのかに正解があるとすれば、その犯罪者が二度と殺人を行わなくなる事実だけ。


映画好きの作者であるが故に、毎度、映像化を思い起こしてしまう。

それは、物語の背景描写などもさることながら、キャストに注目したい物語でもある。

映像化されるのであれば、登場人物の中では特に、仁科 史也と町村 作造に注目したい。


この物語で、「殺人」は、「死刑」は解決されるのか、「贖罪」はなされるのか、物語の最後は心地よく治る安定ではあるが、読み手の意識も変わりそうな一冊である。



さて、この物語、あなたは読んでみたいと思いましたか?

 

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