*書評ではないのでネタバレはありません。
この物語のどこが面白いかというと、
Point 人は、他人の容姿を見て何を思っているのだろうか?そもそも、美しくなるのは何のため?誰のため?
世にも醜い姿で生まれた主人公、田淵和子
彼女は、幼い頃、一緒に迷い子になった自分を必死で守ってくれた幼馴染の高木英介に思いを寄せ続けた。
女性が美を追求し、男性がそれに群がることはいきものの習性。
しかし、主人公の容姿は、男たちに忌み嫌われ、女たちに嘲笑されて育つ。
ブルドックのような顔つきは、家族までもが目を背ける。
ただでさえ、異性を意識する年頃に、彼女の思春期はいかばかりであろうか。
相手にされない彼女は、内にこもっていく。
自分との対話の中で、自分の世界の中で何かを求め出す。
考えてみてほしい。
自分が世にも醜い顔で生まれてきたとしたら…。
顔だけではない、例えば障害をもって生まれたとしたら、例えば思いもつかない処遇で生まれたとしたら。
僕たちは、それが当たり前のように社会にボーダーラインを引く。
そして、その線の内側か外側かをしきりに気にして生きている。
そして、この物語は、そんな美醜のヒエラルキーの中で生きていく一人の孤独な女の物語だ。
それでは、まずは、作者紹介からいたしましょう。
百田尚樹(ヒャクタ・ナオキ)
1956(昭和31)年、大阪市生れ。同志社大学中退。放送作家として「探偵!ナイトスクープ」等の番組構成を手掛ける。2006(平成18)年『永遠の0』で作家デビュー。他の著書に『海賊とよばれた男』(第10回本屋大賞受賞)『モンスター』『影法師』『大放言』『フォルトゥナの瞳』『鋼のメンタル』『幻庵』『戦争と平和』などがある。
ベストセラーを多く持ちながらも、意外にも受賞歴はない。
彼の代表作といえば、
デビュー作の「永遠の0」
執筆にあたっては第二次世界大戦で出征した著者の父親や親族が影響を与えていると言われているが、映画化された隆盛に似合わず、当初原稿を持ち込んだ多くの出版社には認められずにいた。
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ストレスなく文章を終えるわかりやすい文体にして、物語を浸透させていく作家の技としては、浅田次郎、重松清と並んで最も訴求力の高い作家だと推奨する。そして、それは物語の設定もさることながら、登場人物の視点が読者の心を指す。
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さて、登場人物を簡単に紹介しましょう。
田淵和子/鈴村美帆(たぶちかずこ/すずむらみほ) :母方の祖母の養女になったため、「田淵和子」から「鈴原未帆」へと
名前を変える。以降、風俗で稼ぎながら次々と整形を繰り返す。 高木 英介(たかぎえいすけ):幼い頃に夜の街を一緒にさまよった時、守ってくれたこと
から和子が恋した男の子。
る。未帆の整形前と整形後の両方を知る人物。
横山(よこやま):恵比寿にある美容整形「横山クリニック」院長。未帆を徹底的に整形し
ていく。
大橋 信夫(おおはしのぶお):金のない平凡な中小企業の平社員出会ったが、美しくなっ
た美帆を見初め結婚するが後に離婚。
物語は、奇形的な醜さで生まれ、学校の級友はおろか実の母親にすら罵られながら育った女・和子の半生と、顔も名前も変わった後の姿、瀬戸内海の古い田舎町でレストラン「オンディーヌ」を営む町一番の美女・未帆の生活を交互に見せて進行する。
鬱屈した人生を歩む和子は、名前を変えてからも周囲から蔑まれていたが、あるきっかけで美容整形にはまり、性風俗業に従事しながら、幾度にもわたる整形手術を繰り返していく。
美しくなることで周囲の対応が激変していく中で、本人のな本人の中で変わらずに灯されていたのが、幼き頃に自分を守ってくれたかつての初恋の男への変わらぬ思いだった。
美しくなるということは、他人の評価である。
古今東西、世の移りによりその美意識は変化してきたのだから、対象物は変わっても他人からの好印象を美に求める意識は変わらない。
主人公は、数え切れないほどの整形手術を繰り返す。
忌み嫌われるほどの顔は、一つ一つ美形化されていき、美帆は都度、その変化に感激する。
その描写は、単に美しくなったとい事実ではなく、歩けなかった足が歩けるようになった程の感激を抱いていく。
美容整形の世界は、2mm動かしたら激変する。
美醜の顔の差はパーツの僅かな形、位置で変わっていくのである。
人間は4歳から7歳の間に審美眼が発達するそうだ。
メディアに流れる女優やCMの影響で、現代の美意識を刷り込まれて育つ。
そして、昔よりも発信されるメディアの数や質が変わった分だけ、美人の多様性も生まれていると言っていい。
しかし、美の基本的な基準はある。
人間の横顔に、鼻の先からお後の先端に直線を引きます。このライン上に唇が接しているのが最も美しいとされる。これをエステティックラインという。
日本人は、このエステティックラインから口が前に出過ぎているから、モンキーラインと呼ばれる。日本人をして猿に例える理由はここにある。
さらには目の位置も大きく印象を変える。
日本人の場合、目頭から目尻までの長さを1とすると、両目の幅が1.2である状態が最も良いとされている。つまりは、大きさよりもバランスが重要ということだ。
主人公の美帆は完璧なまでもの美貌を手に入れる。
それは、他人より美しくなりたいというエゴというよりも、かつて蔑まれていた自分を周囲が認めてくれるようになるという変化を求めているようだ。そして、彼女の心の底に燃えていた美絵の理由、かつて恋した一人の男への情念だった。
Point モノゴトは、すべてマイナスからゼロにする力学と、ゼロからプラスにする力学で成り立っている、「美」への固執はその視点と意識で移ろうものだ。
主人公は、美容整形手術にかかる何千万という費用を捻出するために、風俗の世界に足を染める。そこにある美のヒエラルキーも、また独特でありながら社会を反映しているようにも見える。
だから、
まとめ 「人は、他人の容姿を見て何を思っているのだろうか?そもそも、美しくなるのは何のため?誰のため? 誰のためかは人それぞれだが、それを定義付けているのは時代に踊らされている世間であることは間違いない。
百田尚樹さんの作品は映画化されやすい。
「永遠の0」「海賊と呼ばれた男」「フォルトゥナの瞳」そして、この「モンスター」どれも、仕上がりが原作とそれほど乖離していないのは、作者が放送作家出身ということなのだろうか。
今思い返してもらいたい、あなたはモンスターだろうか?
さて、この物語、あなたは読んでみたいと思いましたか?
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